この後3日間過ごした一家の主であるモハメットは、時間が経ち
お互いちょっとずつ慣れてきた頃から、だんだんと言動がおかしくなってきた。
慢性的に落ち着きがない人っているけど、彼は更に気分の浮き沈みが激しくて
見た感じ「躁鬱病」を伺わせる行動が目立つようになってきた。
夜になると薬でも飲んでいるのか、落ち着きを取り戻して
優しくて陽気なモハメッドがちゃんといるんだけど
昼間の間は事あることにモロッコ人の悪口を言い出しては
止まらなくなり、彼がどれだけ酷い目に遭ったかを、
殆ど1日中聞かされる羽目になった。
困ったことに彼は相当なストーリーテラーで、信じられないような話でも、
彼の話のテクニックにかかると、現実味を帯びて頭にも心にも響いてくる。
彼の生い立ち、同じ国の人たちから受けたその悲惨な体験。
そこからどう立ち直ったかの話に、私は涙する寸前だった。
掻い摘んではなすと、こんな具合である。
敬虔なモスレムである彼は、ある日いつものように金曜の礼拝に
モスクへ向かった。
そこで真剣にアッラーに祈りを捧げている間に、壁にかけておいた
ジャケットから身分証明書が盗まれた。
どこかの男がモハメッドの身分証明を使って彼に成りすまし、
テロを行うため爆弾を製作していた。
どうにかこうにかなって、ある日モハメッドは逮捕された。
その後真犯人が逮捕されて彼は釈放されたが、
偽モハメッドがしでかした数々の悪行は、その後の本物モハメッドの生活に支障を
来たし、ついに彼は名前を変えざるを得なくなってしまった。
名前を変えてから、まるで人生が変わったように動きだし
彼は大金持ちになった。
オランダでキャバレーを経営し、高級車に乗り、贅沢三昧の生活。
そのあいだ色々な貧しい人々を助けたけど、その恩も裏切られすべてを
根こそぎ持っていかれた。
こういうことが、年に1度はあったそうだ。
(盗みにあう確率がこんなにも高い話、初めて聞いた。
とにかく、いつもどこかで全部持ってかれたらしい)
そうして人が信じられなくなり、我も見失いヘロインにおぼれてしまい、
すべてを失うことになった。
ある日、お母さんが死んだと電話口で聞いた瞬間にその場に倒れ、
そこから9ヶ月の昏睡状態に落ち入った。
その後も何回か昏睡状態に落ち入ったけど、今は2度目の結婚をして
静かに暮らしている。
兄弟も親戚も近所の人も信用しない。
だから自分に友達など一人もいない。
信じられるのは妻と息子だけ。
お金で幸せなんか手に入らない。お金など信用してない。
心が豊かなのが1番。
この世は金金金でクレイジーだ。
モロッコ人なんて世界で一番信用できない。
フランスに住むのはモロッコ人が怖いからだ。
そしていつか妻と子どもと一緒にフランスで暮らすのが夢だ。
大筋はこんなところ。
こんなに人を信用しない人が、なぜ知り合ったばかりの外国人を
家に迎えるのかも、信じられない話だ。
とは言え、話の間にある細かい心情や風景が彼の天才的語り口で表現され、
私もマーカスは映画でも見ているような気分になり、
彼の身の上に起こったことにいちいち驚いていた。
「でも、ウソっぽくない??」と疑う瞬間もあったんだけど、
こんな細かいことをウソで表現できるはずがないと、認めざるを得なくなる。
ある日の朝は、朝食の時間から話し出し、そして止まらなくなった。
頭が破裂しそうになったので、私達は逃げるように海へ出かけて行った。
「出かけるんなら、財布もパスポートも全部ここに置いていきな。
モロッコ人はみんな泥棒だから、絶対に盗まれるよ。」
一瞬迷ったけど、今考えると持って出て行ってよかったと思っている。
金曜の午前中。
金曜礼拝があるせいか、普段人だらけの海水浴場には誰もいない。
ガリ痩せの犬が三匹居ただけで、完全に無人だった。
「ええ~、いいのぉ???」
とは言いながらも、完全プライベートビーチで泳ぎまくった。
そんな感じで海へ行ったり、近くの山へ行ったり、市場へ行ったり
ラシーダと料理したりして、あっという間に時間が過ぎていった。
モハメッドには大変世話になった。
殆どの時間、楽しく過ごすことができた。
頼まれていた大量の買い物リストがあったんだけど、
ぼったくられないようにと一緒に買い物に行ってくれたり
頼んで買ってきてもらった物もあった。
だけど、それでもなんとなくぼったくられてる気がしてならない物もあって、
もしかしたらモハメッドが1枚噛んでるのかも、と疑いたくもなった。
こんないい人そうな人が。。。。
こういう気持ちでいることは、実に気分の悪いものなので、
3日目の夜に明日おいとましょうと決めた。
出発する前、マーカスと買い物に出かけたモハメッドは
「100ユーロ貸してくれ」
と、言って来たそうである。
もちろん貸さなかったけど、なんとなく彼の素性が確信的になりつつあった。
やっぱ、うそなんじゃん??
だまされた??
出発することになった昼下がり。
彼は寂しすぎると言って、息子と妻の前でも恥を惜しまず涙を流した。
号泣だった。
なんなんだ???一体???
沢山の謎が残った。
正直、ちょっと疲れてきてもいた。
だけど大量に買ったスパイスやらオイルは持って周れないし、
どの道また船が出るこの町に戻ってくるので、預かっておいてもらうことにした。
戻ってくる頃には、モハメッドはフランスに帰ってしまうというから
これで会うのは最後だ。
出発間際、寂しいから送らないよと泣いていたモハメッドが家から出てきた。
お土産に、袋いっぱいのイチジクを持たせてくれて
泣き笑いで手を振って送ってくれた。
この人がもしほんとにいい人で、あの涙が本物だったら、疑ってる私達って
相当罪な人間だよね。
だけどこれがもしウソだったら、こんなに見事にウソをつく人を
後にも先にも見ることは無いだろうと思った。
それは、その時点ではどっちなのか分からなかった。
わからなくてモヤモヤしたまま、今度こそ本格的なモロッコの旅が
始まったのだった。
続
お互いちょっとずつ慣れてきた頃から、だんだんと言動がおかしくなってきた。
慢性的に落ち着きがない人っているけど、彼は更に気分の浮き沈みが激しくて
見た感じ「躁鬱病」を伺わせる行動が目立つようになってきた。
夜になると薬でも飲んでいるのか、落ち着きを取り戻して
優しくて陽気なモハメッドがちゃんといるんだけど
昼間の間は事あることにモロッコ人の悪口を言い出しては
止まらなくなり、彼がどれだけ酷い目に遭ったかを、
殆ど1日中聞かされる羽目になった。
困ったことに彼は相当なストーリーテラーで、信じられないような話でも、
彼の話のテクニックにかかると、現実味を帯びて頭にも心にも響いてくる。
彼の生い立ち、同じ国の人たちから受けたその悲惨な体験。
そこからどう立ち直ったかの話に、私は涙する寸前だった。
掻い摘んではなすと、こんな具合である。
敬虔なモスレムである彼は、ある日いつものように金曜の礼拝に
モスクへ向かった。
そこで真剣にアッラーに祈りを捧げている間に、壁にかけておいた
ジャケットから身分証明書が盗まれた。
どこかの男がモハメッドの身分証明を使って彼に成りすまし、
テロを行うため爆弾を製作していた。
どうにかこうにかなって、ある日モハメッドは逮捕された。
その後真犯人が逮捕されて彼は釈放されたが、
偽モハメッドがしでかした数々の悪行は、その後の本物モハメッドの生活に支障を
来たし、ついに彼は名前を変えざるを得なくなってしまった。
名前を変えてから、まるで人生が変わったように動きだし
彼は大金持ちになった。
オランダでキャバレーを経営し、高級車に乗り、贅沢三昧の生活。
そのあいだ色々な貧しい人々を助けたけど、その恩も裏切られすべてを
根こそぎ持っていかれた。
こういうことが、年に1度はあったそうだ。
(盗みにあう確率がこんなにも高い話、初めて聞いた。
とにかく、いつもどこかで全部持ってかれたらしい)
そうして人が信じられなくなり、我も見失いヘロインにおぼれてしまい、
すべてを失うことになった。
ある日、お母さんが死んだと電話口で聞いた瞬間にその場に倒れ、
そこから9ヶ月の昏睡状態に落ち入った。
その後も何回か昏睡状態に落ち入ったけど、今は2度目の結婚をして
静かに暮らしている。
兄弟も親戚も近所の人も信用しない。
だから自分に友達など一人もいない。
信じられるのは妻と息子だけ。
お金で幸せなんか手に入らない。お金など信用してない。
心が豊かなのが1番。
この世は金金金でクレイジーだ。
モロッコ人なんて世界で一番信用できない。
フランスに住むのはモロッコ人が怖いからだ。
そしていつか妻と子どもと一緒にフランスで暮らすのが夢だ。
大筋はこんなところ。
こんなに人を信用しない人が、なぜ知り合ったばかりの外国人を
家に迎えるのかも、信じられない話だ。
とは言え、話の間にある細かい心情や風景が彼の天才的語り口で表現され、
私もマーカスは映画でも見ているような気分になり、
彼の身の上に起こったことにいちいち驚いていた。
「でも、ウソっぽくない??」と疑う瞬間もあったんだけど、
こんな細かいことをウソで表現できるはずがないと、認めざるを得なくなる。
ある日の朝は、朝食の時間から話し出し、そして止まらなくなった。
頭が破裂しそうになったので、私達は逃げるように海へ出かけて行った。
「出かけるんなら、財布もパスポートも全部ここに置いていきな。
モロッコ人はみんな泥棒だから、絶対に盗まれるよ。」
一瞬迷ったけど、今考えると持って出て行ってよかったと思っている。
金曜の午前中。
金曜礼拝があるせいか、普段人だらけの海水浴場には誰もいない。
ガリ痩せの犬が三匹居ただけで、完全に無人だった。
「ええ~、いいのぉ???」
とは言いながらも、完全プライベートビーチで泳ぎまくった。
そんな感じで海へ行ったり、近くの山へ行ったり、市場へ行ったり
ラシーダと料理したりして、あっという間に時間が過ぎていった。
モハメッドには大変世話になった。
殆どの時間、楽しく過ごすことができた。
頼まれていた大量の買い物リストがあったんだけど、
ぼったくられないようにと一緒に買い物に行ってくれたり
頼んで買ってきてもらった物もあった。
だけど、それでもなんとなくぼったくられてる気がしてならない物もあって、
もしかしたらモハメッドが1枚噛んでるのかも、と疑いたくもなった。
こんないい人そうな人が。。。。
こういう気持ちでいることは、実に気分の悪いものなので、
3日目の夜に明日おいとましょうと決めた。
出発する前、マーカスと買い物に出かけたモハメッドは
「100ユーロ貸してくれ」
と、言って来たそうである。
もちろん貸さなかったけど、なんとなく彼の素性が確信的になりつつあった。
やっぱ、うそなんじゃん??
だまされた??
出発することになった昼下がり。
彼は寂しすぎると言って、息子と妻の前でも恥を惜しまず涙を流した。
号泣だった。
なんなんだ???一体???
沢山の謎が残った。
正直、ちょっと疲れてきてもいた。
だけど大量に買ったスパイスやらオイルは持って周れないし、
どの道また船が出るこの町に戻ってくるので、預かっておいてもらうことにした。
戻ってくる頃には、モハメッドはフランスに帰ってしまうというから
これで会うのは最後だ。
出発間際、寂しいから送らないよと泣いていたモハメッドが家から出てきた。
お土産に、袋いっぱいのイチジクを持たせてくれて
泣き笑いで手を振って送ってくれた。
この人がもしほんとにいい人で、あの涙が本物だったら、疑ってる私達って
相当罪な人間だよね。
だけどこれがもしウソだったら、こんなに見事にウソをつく人を
後にも先にも見ることは無いだろうと思った。
それは、その時点ではどっちなのか分からなかった。
わからなくてモヤモヤしたまま、今度こそ本格的なモロッコの旅が
始まったのだった。
続
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